今回は、HAクラスター環境におけるバックアップについて考えてみたいと思います。
以前Quest Software様の記事のとおり「バックアップとHAクラスター」はIT危機管理の基本であり、車の両輪のように、どちら必要な対策です。
また、「バックアップとレプリケーション」は競合するものではなく、目的に応じて使い分ける、または両方を活用する必要があります。たとえば、レプリケーションは常に最新の状態でデータを複製できますが、その一方でウイルス感染データなど、問題のあるデータも複製してしまいます。
このような場合に、データが正常だった最終時点に戻すには、バックアップが不可欠です。レプリケーションを行えば、システム障害のあった直前のイメージに即座にアクセスすることができる一方、データを世代別に蓄積したりはできません。
つまり、
- HAクラスターを構成しているからといって、バックアップが不要なわけではありません。
- レプリケーション機能があるからといって、データのバックアップが不要になるわけでもありません。
今回は、HAクラスター環境におけるバックアップを行う際の注意点や留意事項について考えてみます。LifeKeeperというHAクラスターソフトと、DataKeeperというデータレプリケーションソフトを例に話を進めます。
5つのバックアップ対象とそれぞれの注意点
考え方としては、バックアップの取得対象として以下の5つを想定しながら、それぞれのバックアップ手法と注意すべき点を挙げていきます。
- OS領域
- LifeKeeper/DataKeeperのプログラム(実行モジュール)
- LifeKeeper/DataKeeperの構成情報
- アプリケーションのプログラム(例えばOracle, PostgreSQLなど)
- アプリケーションのデータ
また、外部のバックアップサーバーからバックアップを行う際のHAクラスター環境ならではの留意事項についても触れてみます。
1.OS領域のバックアップ
OSの標準ユーティリティやサードパーティーのバックアップソフトウェアで取得する方法が一般的です。こちらに関してはHAクラスタ環境だからと言って特別な考慮点はありません。
2.LifeKeeper/DataKeeperのプログラム(実行モジュール)のバックアップ
OS標準ユーティリティやサードパーティーのバックアップソフトウェアで取得可能です。敢えてバックアップはせずに、ディスク障害等でプログラムが消えてしまった場合には再インストールを行うという割り切った運用もあるかもしれません。
3.LifeKeeper/DataKeeperの構成情報のバックアップ
こちらに関してはLinux版LifeKeeperにはlkbackupと呼ばれるコマンドが付属しています。
lkbackupは、LifeKeeperおよびリソースが起動した状態で実行でき、稼働中のサービスに影響を与えません。
lkbackupコマンドを実行するタイミングは、主に以下の3つの場合が考えられます。
- LifeKeeperを新規インストールし、リソースの作成が完了した直後
- LifeKeeperの構成を変更(依存関係の追加・変更、リソースの追加・削除)する前後
- LifeKeeperのバージョンアップの前後
lkbackupで構成情報のバックアップを取得しておけば、ディスク障害で構成情報が消えてしまった場合や、オペレーションミスなどで構成情報が壊れてしまった場合にも、 特定時点(正常に動いていた時点)の状態に素早く戻すことができます。
→[[Linux]クラスター構成のバックアップ/リストア方法を教えてください。]
4.アプリケーションプログラムのバックアップ
こちらも1.や2.と同様、OS標準のユーティリティやサードパーティーのバックアップソフトでのバックアップイメージ作成とリストアが可能です。この部分に関してもHAクラスター環境ならではの留意点は特に無いと考えられます。
5.アプリケーションのデータのバックアップ
ここが、通常の環境とHAクラスター環境で異なる部分です。HAクラスター環境では、稼働系と待機系サーバー双方から利用可能な「共有領域」が設けられ、平常時は稼働系から「共有領域」を使用し、稼働系のシステム障害発生後には待機系サーバーから同じ「共有領域」を利用することが可能です。
アプリケーションのデータ(例:データベースのデータ)は通常この共有領域に置かれますが、この共有領域のバックアップを行う際には、以降であげる点に留意する必要があります。
共有ストレージ構成の場合の場合
稼働系と待機系の共有領域に配置されたデータのバックアップを取得する場合、共有領域にあるデータには稼働系からしかアクセスできない(待機系からはデータへのアクセスができない)ため、バックアップも稼働系から実行します。この場合、バックアップ中のシステムリソース(CPUなど)への負荷(オーバーヘッド)には充分注意する必要があります。
データレプリケーション構成の場合
データレプリケーション構成の場合も、稼働系からのバックアップが基本となりますが、一時的にミラーリングを停止してロックを解除することにより、待機系側でもバックアップを実行できます。ただしこの場合、一時的にデータが同期されなくなります。
外部のバックアップサーバーからクラスターノードのバックアップを実行する場合
外部のバックアップサーバーからクラスターノードのバックアップを実行するには、クラスターノードの仮想IPアドレスまたは実IPアドレスのいずれかを使用します。それぞれの場合の注意点は以下の通りです。
- クラスターノードの仮想IPアドレスを使用してバックアップを実行する場合
バックアップサーバーから見て、LifeKeeper Coreが持つ仮想IPアドレスが示すノードに対してバックアップを実行します。この場合、バックアップサーバーはどのノードが稼働系であるかを意識する必要はありません。
- クラスターノードの実IPアドレスを使用してバックアップを実行する場合
バックアップサーバーから見て、LifeKeeper Coreが持つ仮想IPアドレスを使用せずに、実IPアドレスに対してバックアップを実行します。
共有領域には待機系からはアクセスできないので、バックアップサーバーおよびクライアントは、どのノードが稼働系なのかを確認する必要があります。
検証レポート
HAクラスター環境で、NetVault Backup 及び Veeam Backupを使ったバックアップ/リストアの方法を検証レポートという形で公開しています。バックアップ運用の設計にぜひお役立てください。