※本記事はお客様事例フライヤーとして公開しています。
株式会社エムティーアイ(以下、エムティーアイ)は、「music.jp」「ルナルナ」をはじめモバイルを通じて生活に密着した多彩なコンテンツサービスを提供している。その運用を支えてきたのが共有ストレージだ。しかしストレージに対するニーズや意思決定のプロセスはサイトごとに大きく異なり、画一的なリソースしか提供できない共有ストレージでは次第に弊害が目立つようになってきた。
そこで保守切れを機に、各サイトのローカルディスクをベースとした運用体制へと転換。この新たな環境下で共有ストレージ同等の可用性を担保するため採用されたのがWindows Server標準のWSFC(Windows Server Failover Clustering)とサイオステクノロジー (以下、サイオス)のDataKeeperを組み合わせた共有ストレージ不要のクラスターソリューション、SANLess Clustersである。
共有ストレージを利用したインフラからローカルディスクの利用へと方針を転換
エンターテインメントから生活情報、ヘルスケアまで、日々の暮らしを楽しく便利にするコンテンツ配信サービスを主事業とするエムティーアイは、「music.jp」(音楽、動画、書籍を配信する総合Webサイト)や「ルナルナ」(ヘルスケア系サービス)などのモバイルサイトの有料会員数が順調に推移し、成長を続けている。
多彩なサービスの運用を支えるITインフラの中心に位置付けられてきたのが共有ストレージだ。各サイトが必要とするボリュームを共有ストレージから切り出して割り当てることで、リソースを無駄に消費しないコスト効率の優れた運用を実現できる。
しかし近年、この運用体制にさまざまな弊害が生じてきた。同社基盤システム部の大川浩之氏は、「あるサイトではパフォーマンスを求め、また別のサイトでは容量を求めるというように、求める要件の足並みが揃わなくなってきたのです。なかには独自にパブリッククラウドに移行するサイトもあらわれ始めました」と語る。
運用中の共有ストレージに保守切れの期限が近づいたことで、エムティーアイは大きな決断を迫られた。「新しい共有ストレージにリプレースしたとしても、各サイトで使い続けられる保証はありません。一部のサイトを稼働させるために、高コストの運用を余儀なくされるというリスクがありました」と大川氏。 こうしてエムティーアイは、サイトごとのローカルディスクを使用した運用へと舵を切ったのである。
ただ、これにも問題がないわけではない。ローカルディスクであっても共有ストレージと同等の可用性レベルを維持する必要があり、パフォーマンス低下も許されない。
WSFCとDataKeeperを組み合わせ、Always On可用性グループと同等の可用性を担保
課題解決を探る中で、まずエムティーアイが注目したのがMicrosoft SQL Serverの機能の一つであるAlways On可用性グループを利用する方法である。複数サイト間で相互にデータベースのミラーリングを行い、トラブルが発生した場合に自動的にフェールオーバーする仕組みだ。しかし、結局はこれも採用には至らなかった。Always On可用性グループを利用するためには、Microsoft SQL ServerをStandard EditionからEnterprise Editionにアップグレードする必要があり、大幅なコスト増を招いてしまうからだ。
代わって浮上したのが、Windows Server標準のフェールオーバークラスタリング機能であるWSFCとサイオスのDataKeeperを組み合わせるSANLess Clustersソリューションだ。「これならMicrosoft SQL ServerはStandardEditionのままで、Always On可用性グループと同等の可用性を担保することができます」と大川氏は強調する。Linuxをベースとした社内の別システムで、すでにLifeKeeperとDataKeeperを組み合わせたクラスター構成を運用している実績があることも追い風となった。
もっともWSFCと組み合わせたDataKeeperの利用についてはこれまで経験がなく、不安は拭い去れない。「特に気になったのはパフォーマンス面です」と語るのは、同社基盤システム部の冨岡鉄平氏である。
そこでエムティーアイはサイオスからDataKeeperの検証用ライセンスを借り受け、テストを実施することにした。「実際の運用形態に近いクラスター構成を組み上げ、2016年2月から3月にかけて入念なパフォーマンス検証を繰り返しました。その結果、従来の共有ストレージを利用したシステム構成と比較してもパフォーマンス低下は見られず、むしろバッチ処理についてはスピードが向上することを確認できました。システム要件に応じて、レプリケーションの同期モードと非同期モードを使い分けられる点も大きなメリットでした」と冨岡氏は語る。
こうして「運用上まったく問題はない」と確かな手応えを得たエムティーアイは、同年5月にDataKeeperを正式導入するに至った。
データセンターの設置スペースを減らしインフラの運用コスト削減を図る
2017年3月現在、エムティーアイはすでに「ライフレンジャーナビ」(生活情報系サービス)や「ルナルナ」といったサイトについてSANLess Clustersソリューションへの移行を完了。 同社サイトの中で最大規模の「music.jp」についても、まもなく移行を終える予定だ。これにより、パフォーマンス重視や容量重視といったサイトごとに異なる要件に対応するストレージリソースを提供できるようになった。
「トラブルが起こった際に、担当部門から『他部門よりもストレージ品質が劣っているのでは…』といった根拠のないクレームをもらうこともなくなります」と冨岡氏。さらに大川氏は、「社内に実績ができたことで、これまで独自にFCストレージの導入を検討していたサイトも方針を改め、WSFC+DataKeeper構成への移行が加速しています」と語る。
そして、すべてのサイトのSANLess Clustersソリューションへの移行が実現した暁に期待できるのが、さらなるコスト削減だ。
「共有ストレージの利用を完全になくせば、SANスイッチなどのネットワーク機器もあわせてラックから撤去することができ、つまりはデータセンターの設置(賃貸)コストを大幅に節約できます」と大川氏は語る。
加えてSANLess Clustersソリューションは、AWS(Amazon Web Service)やMicrosoft Azureなどの主要なパブリッククラウド環境にもそのまま移行できる。エムティーアイのインフラは、多様なサイトの要求の変化に柔軟に対応できる、かつてないアジリティを手に入れたといえる。
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