前回の記事では、倉庫・物流業界における課題とIT化への取り組み、そして万が一の障害発生時にも業務を停止させないための仕組みの必要性について解説しました。
今回はさらにシステム面に焦点をあてて、倉庫・物流業界、および小売業界におけるIT化の最新動向を深堀りしていくとともに、そこで浮上している課題と、業務やビジネスを停止させないために不可欠な可用性を向上させるソリューションを選択する際のポイントについて解説していきます。
Contents
業務効率化やビジネス拡大を目指しデジタル化が進む倉庫・物流・小売業界のシステム
第1回でも解説したように、倉庫・物流業界ではECの拡大に伴う業務の増加や、少子高齢化による人手不足といった課題に対応するため、ITを活用した業務効率化や生産性向上に積極的に取り組んでいます。例えば、倉庫業界では倉庫内業務の自動化・機械化による省人化のほか、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)の高度化が進められています。
WMSの高度化では、倉庫管理や物流管理、販売管理といったさまざまな業務をデジタル技術の活用で精緻化することで、業務効率化のみならず、顧客満足度の向上など、ビジネスの拡大につなげようという動きが出てきています。
同様に、小売業界でもデジタル技術の活用が進んでいます。デジタル技術の活用は、業務効率化はもとより、売上拡大や顧客満足度の向上に不可欠なものとなっています。セルフレジの導入による店舗スタッフの省人化や、AIを活用した在庫管理による業務効率化は、その1つと言えるでしょう。また、売上拡大においては、ECサイトとリアル店舗のシステムやデータ連携によるマルチチャネル化も進むなど、その取り組みは多岐にわたります。
一方で、従来、オンプレミスを主軸としていたシステム構築・運用についても、近年ではクラウドサービスの活用も進んでいます。倉庫・物流業界では、オンプレミスでのシステム構築がまだまだ主軸であるものの、追加機能要件に対して、IaaS上でサブシステムを構築する事例も増えています。将来的には基幹系システムも含めたオンプレミスからのクラウドリフトも検討されています。
また、倉庫・物流・小売業界に共通する取り組みとして、パブリッククラウドの大規模データ分析サービスやAI(人工知能)、機械学習サービスを活用し、在庫や購買データ、IoTなどによるセンサーデータなど、さまざまなデータを収集し、詳細な分析が実施されています。物流の最適化をはじめ、スタッフの行動分析によるさらなる業務効率化、そして、顧客接点の強化や店舗への来店増加など、施策の立案と実施につなげる動きが活発化しています。
システムの停止は業務に大きな影響をもたらす障害発生時にも業務を継続できる仕組みが重要
そうした中で、ITの観点から倉庫・物流・小売業界では、新たにどのような課題が浮上しているのでしょうか。例えば、倉庫・物流業界のWMSのケースでは、業務高度化のための追加要件に対してはサブシステムを構築し、既存のWMSと連携させるケースが増えています。しかし、そうしたサブシステムが継続的に増加することで、システムはますます複雑化し、「スパゲッティ」状態と化していることが少なくありません。
このようにシステムの数が急増し、複雑に連携し合いながら業務を行っている中では、万が一、いずれかのシステムに障害が発生した場合、その影響は多方面に及ぶだけでなく、原因の究明から影響範囲の確認、対処、復旧までの時間や手間もこれまで以上に要することになります。
また、小売業界ではECサイトのビジネスが拡大して注文が殺到した際に、膨大なトランザクションデータが在庫管理システムで発生、システム障害によって停止する可能性もあります。小売業界のようにシステムの安定維持が売上に直結する企業においては、システム停止は販売の機会損失をもたらします。それが長期化した場合、多くの金銭的な損害がもたらされるだけでなく、企業の信頼も損なってしまいかねません。
これらの背景から、万が一の障害発生時に際して、改めてビジネスを停止させない可用性確保の仕組みが必要となっています。
可用性の向上を検討する際には、オンプレミスだけでなくクラウドについても考慮する必要があるでしょう。第1回でも述べたように、メガクラウドサービスにおいて大規模障害が発生し、一定期間業務が停止してしまった事例も少なからず発生しています。
そうしたことから、少なくとも同一のクラウドサービス内においては、同一リージョン内にさらに小さく区分けされた複数の「アベイラビリティゾーン」を併用し、システムを運用するといった方策が必要となります。例えば、メインで利用しているアベイラビリティゾーンに障害が発生した際には、移行先となるサブのアベイラビリティゾーンに切り替えることで、システムの運用を継続させることが可能となるからです。今後、ますますクラウドの活用が拡大していく中では、このような耐障害性を確保するための仕組みの整備が重要になるでしょう。
クラウド時代におけるシステムの高可用性確保をどのように進めていけばよいのか
不慮のシステム障害が発生しても、ビジネスを停止させないようにするためには、「高可用性ソリューション」が効果を発揮します。高可用性ソリューションにはハードウェアの冗長化をはじめとして、いくつかの種類がありますが、例えばHAクラスターソフトウェアであれば、システムの障害を監視し、稼働系に障害が生じた場合に待機系に自動的に切り替えを行うことで、システムのダウンタイムの時間を短縮し、業務への影響やビジネス損失を最小限にとどめることができます。
そして多くの業界でクラウドの導入が進む中、昨今のシステムの高可用性を確保する際に考慮しなければならないことは、クラウド活用時の運用や対応です。
特に倉庫・物流・小売業では人材が不足しがちで、IT部門においても人材不足が喫緊の課題となっています。従来のようにオンプレミスを主軸としたシステムの場合、定期的なリプレースの際には、ハードウェアの刷新をはじめとして、プロジェクトの遂行に数年かかることも少なくなくありません。また、万が一ハードウェアが故障した際には、交換のための調達に時間もかかります。自社で構築から運用までを行わなければならないオンプレミスのシステムは、IT部門の人員不足の中においては大きな負担になりがちです。
このような背景から、倉庫・物流・小売業においても基幹系システムのクラウドリフトの検討が進んでいます。しかし、いざクラウドに基幹系システムを移行しようとした際、本当にオンプレミスのような可用性を担保できるのか、不安に感じているシステム担当者は多いでしょう。クラウド上でのシステム運用に関するノウハウやスキルを有したIT担当者が社内におらず、その採用や育成に時間やコストがかかることも懸念事項の1つになっているのではないでしょうか。
最後に
「クラウド移行についても可用性を確保したいが、その実現にはさまざまな方法があり、どれが自社にとって最適なのか分からない」といった声も多く寄せられています。
そのような悩みに対してサイオステクノロジーでは、クラウドにおけるシステム障害の対策に関する考え方や、高可用性ソリューションの具体的な導入方法などを紹介したホワイトペーパーをご用意しました。クラウドリフトを進めていくうえで、業務やビジネスを止めないシステムの構築や運用に向けて、ぜひご活用ください。