HAクラスター環境を、共有ディスク型/データミラー型で Azureにクラウドリフトするシナリオを解説

    DX推進に向けて、オンブレミスの既存システムをクラウドリフトする動きが加速する一方で、技術的にクラウド移行が難しいケースも少なくない。共有ディスク+HAクラスター構成の基幹系システムなどはその最たる例だ。

    主要パブリッククラウドのなかにはそもそも共有ディスクに対応していないものもあるほか、OSやソフトウェアとの組み合わせによってはそのままクラウドリフトすることが難しい場合もある。

    そこで本コラムでは、共有ディスク+HAクラスター構成のオンプレミスシステムをクラウドリフトする複数のシナリオについて紹介する。

    オンプレミスのミッションクリティカルなシステムをいかにクラウドリフトするか

    金融業の勘定系や大企業の基幹系などミッションクリティカルなシステムでは、セキュリティはもちろんのこと、高いパフォーマンスと可用性が要求される。こうしたケースの多くで採用されているのが、冗長化されたサーバに高性能な共有ストレージを組み合わせた、“共有ディスク+HAクラスター構成”だ。商用クラスターソフトなどを利用して、片方のサーバに障害が発生した際にはもう片方のサーバにフェールオーバーすることでビジネスへの影響を最小化できる。共有ディスクを遠隔地にデータレプリケーションすることでDR/BCP強化も可能だ。

    こうした構成はクラウド移行のハードルが高くオンプレミスのまま運用する企業が多かったが、DXに取り組む企業が増えるなか、この領域についてもクラウド移行を進める動きが加速している。それを可能にしたのがクラウドサービスの進化であり、商用HAクラスターソフトの存在である。

    ミッションクリティカルなシステムのクラウドリフトを可能にする「Azure共有ディスク」

    現在、主要なクラウドサービス(IaaS)においても、共有ディスクに対応するものが登場しており、20207月に「Azure共有ディスク※1」の一般提供を開始したMicrosoft Azure(以下Azure)もそのひとつだ。それまではAzureにおいても、1つのストレージに対し1つのインスタンス(VM)しかアタッチできなかったが、Azure共有ディスクによって複数のインスタンス(VM)をアタッチできるようになり、Azureのストレージサービスである「Azureマネージドディスク」を共有ディスクとしたHAクラスター構成が可能になった。

    フェールオーバーの仕組みに、標準のWindows Server Failover Cluster(以下WSFC2)、あるいは、サードパーティのHAクラスターソフトを用いることで、オンプレミスの構成に大きく手を入れることなく、システム全体の可用性を維持したまま、Azureへのクラウドリフトを実現する。WSFCとサードパーティのクラスターソフトの使い分けについては、OSWindows且つアプリケーションがAzure共有ディスクに対応していて、自社でのAzure環境構築に自信がある企業の場合は、無償で利用できるWSFCがお勧めだ。

    一方、OSLinux且つアプリケーションがAzure共有ディスクに対応していない場合※3は、サードパーティのクラスターソフトを利用するしかないが、環境構築のスキルに不安がある場合は、HA化するアプリケーションの動作を制御する専用スクリプトが用意され、手順通りにすれば簡単に構築できる「LifeKeeper」のような製品がお勧めだ

    1 Azure共有ディスクについて詳しく解説したコラムはこちら
    2 WSFCについて詳しく解説したコラムはこちら

    可用性ゾーンを跨いだデータミラー型HAクラスターという選択肢も

    なお、高性能なUltra DisksPremium SSD v2を用いたAzure共有ディスクは、可用性ゾーン(以下AZ)を跨いで利用することができない※3。このため、高いパフォーマンスが要求されるシステムを、異なるAZでクラスタリングして広域災害にも対応したいというニーズには対応できず、あくまで同一AZ内での構成にとどまる。

    ミッションクリティカルなシステムについては、AZの障害やAzure共有ディスクが単一障害点になることを懸念する向きもあると思うが、その場合は共有ディスクではなく、ディスクのミラーリングで対応すればよい。各AZVMAzureマネージドディスクをアタッチし、レプリケーションソフトである「DataKeeper」などを用いてディスク間でデータをミラーリング、WSFCLifeKeeperと連携することでAZを跨いだデータミラー型HAクラスター構成を実現する。

    ちなみに、WSFCは対応OSWindowsのみだが、LifeKeeperWindows/Linuxの両方に対応し、より幅広いシナリオに対応する。

    ※4 20233月事典(https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/virtual-machines/disks-shared

    HAクラスター構成のクラウドリフトシナリオ(まとめ)

    最後に、Microsoft Azureの場合、HAクラスター構成のクラウドリフトのパスをまとめると下図のようになる。共有ディスク型HAクラスター構成について、パフォーマンスを損なうことなく省コストでクラウドリフトを実現するのは、Azure共有ディスク+WSFCの組み合わせだが、このシナリオは、OSやアプリケーションなどの要件を満たし、Azureでの環境構築に一定のスキルやノウハウを有するケースに限られる。

    この点、Azure共有ディスク+LifeKeeperの組み合わせなら、より幅広い要件に対応し、Azureでの環境構築経験が少ない企業でも導入しやすい。また、データミラー型HAクラスター構成については、LifeKeeper+DataKeeper(両方ともサイオステクノロジー製品)の組み合わせで実現することで、連携設定が容易で、問い合わせ窓口や請求の一元化のメリットも期待できる。

    Azure上でのLifeKeeperDataKeeperの組み合わせについてはこちら

     

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