ICTシステムにおけるオープンソースソフトウエア(OSS)の利用が一般的になり、適用範囲も広がってきた。そうした中で、OSSのデータベース利用にさらなる変化が見えてきている。
「これまではICTコストの削減、バックオフィスの業務効率化といった分野にOSSが適用されて成果を上げてきました。ところが最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれ、AI(人工知能)やIoT(インターネットオブシングス)を活用したビジネスイノベーションの基盤として用いられるなど、OSS利用の裾野が広がってきています」。こう語るのは、富士通が提供するOSSデータベースを技術面から支える同社ソフトウェア事業本部 データマネジメント事業部 プロダクト技術部 マネージャーを務める中村智洋氏だ。
DXが注目される中、これからのデータベースは、どのような製品が適しているのか。中村氏は、「従来型のリレーショナルデータベースやNoSQLなど、さまざまなデータ処理基盤と容易に連携できるオープンなPostgreSQLが適しています」と語る。オープンなコミュニティによって発展してきたPostgreSQLは、近年、その進化が目覚ましい。処理の並列化が進み、大量データの処理性能は著しく向上し、既存の商用データベースと比べても遜色なく使えるようになってきている。一方で、ビジネスユースで必要な運用面は、十分とはいかない。
「富士通では、これまで培ってきたデータベース技術を投入してPostgreSQLのセキュリティや、信頼性・サポートを強化し、ビジネスユースで安心してお使いいただけるようにしました」(中村氏)。 それが「FUJITSU Software Enterprise Postgres」(エンタープライズポストグレス、以下Enterprise Postgres)である。
安全安心の機能・サポートで業種や規模を問わず利用拡大
Enterprise Postgresは、PostgreSQLをベースに運用性を向上する周辺OSSツールを含めて提供している。「PostgreSQLを導入する際には、周辺OSSツールを組み合わせることが多くあります。このため、組み合わせる周辺OSSツールとの動作検証が発生します。Enterprise Postgresならば周辺OSSツールまで検証済みの状態で提供されているので、検証作業が軽減でき、スピード感のある導入が実現できます」(中村氏)。オープンで柔軟性の高いOSSのメリットと、安全安心の日本クオリティのメリットを、うまくミックスして利用できるというわけだ。
富士通 ソフトウェア事業本部 データマネジメント事業部 プロダクト技術部 マネージャー 中村智洋氏
このような取組みに加え、セキュリティや信頼性の機能、また運用管理を容易にするツールを提供しPostgreSQLをより使いやすくしている。コミュニティ版のPostgreSQLに対して、富士通が提供するEnterprise Postgresの主な差異化ポイント2つを見ていこう。
1つは「透過的データ暗号化」機能の標準装備。一般的な商用データベースには、アプリケーションを改修せずに、データベースを暗号化できる透過的データ暗号化という機能がある。コミュニティ版にはこの透過的データ暗号化機能が提供されていないため、暗号化するにはアプリケーションを改修する必要があり、結果的に追加コストがかかってしまう。また、他社のデータベースでは透過的データ暗号化はオプション対応となっていることが多く、高額なコスト負担が求められる。このような課題に対し、Enterprise Postgresは透過的データ暗号化機能を標準装備しているため、システム規模によらずコストを抑えて安全性を高められる。
もう1つが安心のワンストップサポート。富士通製のミドルウエアと同等のサポートを、PostgreSQLと周辺OSSツールを含めて富士通がワンストップで行うため、切り分けやテストなどを個別に行う必要性がない。また、長期のサポートもビジネスユースにはありがたいポイントだ。コミュニティ版のPostgreSQLではリリースから最長5年でサポートが終了するため、企業がシステムを開発し、稼働している期間中にサポートが切れてバージョンアップ対応を迫られる可能性が高い。Enterprise Postgresでは標準で販売終了から5年のサポートを行い、その上で延長サポートも提供するので安心感が高い。さらに24時間365日のサポートも提供する。
幅広い業種業態で導入が進展、クラウド移行も後押し
こうした富士通の取組みにより、Enterprise Postgresは着実に導入実績を積み重ねている。運用コストの見直しや、ITイノベーションなど新ビジネスに向けた投資の最適化など、導入の狙いは多様だ。業種や業態、組織の規模も幅広く、公共から流通、産業、金融まで満遍なく導入されている。
製造業のある企業では、統合基幹業務の一部のシステムをオンプレミスからクラウド環境へ移行する際に、データベースをEnterprise Postgresに変更した。海外ベンダー製のデータベースによるロックインを回避し、コストの削減を狙ったものだ。Enterprise Postgresの導入でオープン性が向上し、性能も従来と同等以上を確保しながら、運用保守コストを大幅に削減できたという。
金融業のある企業では、コミュニティ版PostgreSQLでWebシステムを構築していたが、PCI DSSに対応するために、Enterprise Postgres に移行した。透過的データ暗号化によりPCI DSSに準拠できただけでなく、データベース二重化により信頼性を容易に確保できた。また、コミュニティ版からの移行も短期間で実施できたという。
Enterprise Postgresの顧客との窓口を担うソフトウェア事業本部 データマネジメント事業部 プロダクト技術部の森 世紀氏は「PostgreSQLのビジネス利用の検討が広がってきています。Enterprise Postgresは富士通が提供するデータベースとして、基幹システムにも使える信頼性を備えています」と説明する。
富士通 ソフトウェア事業本部 データマネジメント事業部 プロダクト技術部 森世紀氏
オンプレミスからクラウドへの潮流とともに、富士通が提供する高い信頼性によってEnterprise Postgresは適用範囲を確実に広げている。基幹システムなどのミッションクリティカルなシステムにも、OSSベースのデータベースが利用できることがユーザーに伝わるようになってきているのである。
クラウドファースト時代に「止まらない」可用性を提供
基幹システムのようにミッションクリティカルなシステムでEnterprise Postgresを導入する際には、可用性の担保も求められる要件となる。「最近ではクラウドファーストが浸透し、官公庁などを中心にクラウドで検討を進める動きが高まっています。クラウドの安定性や信頼性が企業に認められ、従来オンプレミスで運用していたシステムのクラウド移行が進んでいます。この際、オンプレミスで実現していたシステムの可用性をクラウドでどのように担保するかが課題になっています。富士通ではEnterprise Postgresのクラウド上での可用性を担保する手段の一つとして、サイオステクノロジーのLifeKeeperとの連携ソリューションを提供しています。」(森氏)。
LifeKeeperは、システム障害時に短時間で稼働系から待機系に自動的に切り替えられるHAクラスターソフト。Enterprise Postgresはプラットフォームを選ばずに利用できるデータベースであり、マイクロソフトのAzureやアマゾンのAWSなどのクラウドにも広く対応している。LifeKeeperもマルチクラウドに対応したHAクラスターソフトであり、Enterprise Postgresとの相性は良い。
元々、Enterprise PostgresとLifeKeeperの連携は、公共関係のユーザーからの要望が一つのきっかけだった。公共関連ではOSS志向が強く、Enterprise Postgresへの関心も高かった。検討の際に、同時に高可用性を実現するためのLifeKeeperとの連携が求められ、導入が進んだ経緯があるという。
森氏は「クラウド各社が提供する可用性には固有の仕様があります。マルチクラウドに対応したEnterprise PostgresとLifeKeeperの組み合わせであれば、個々の環境にとらわれず高い可用性を確保できるのです」と語る。LifeKeeperとの連携ソリューションはEnterprise Postgresそのものの幅広い利用に歩調を合わせて、業種業態や規模に関わらず導入が進んでいる。業種や規模の違いというよりも、システムやデータベースが止まってはいけない性格を持つことがLifeKeeper導入の決め手になっている。
「LifeKeeperとの連携は、特殊な構成ではなく、その導入数は着実に増えています。クラウドの安定性、信頼性が高まっているとは言え、絶対に止まらないということはありません。“止まらないことが前提のお客さまのシステム”との間にある壁を乗り越えるツールが、LifeKeeperだと感じています」(中村氏)。OSSデータベースをミッションクリティカルな業務に適用させる環境が、Enterprise PostgresとLifeKeeperの連携で整ってきているのである。
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