企業システムのクラウド化の現状と4つのメリット

    「クラウド」というと、何を思い浮かべるでしょうか。個人の感覚で言えば、DropboxやGoogle Drive、One Driveのようなクラウドストレージサービスがイメージされることが多いでしょう。オンラインで利用できるストレージ(外部記憶装置)として、場所や端末を問わずにクラウド上に保存した情報にアクセスできるメリットは多くの方が感じているでしょう。

    それでは、企業の立場でクラウドについて考えてみると、どのようなイメージが湧くでしょうか。

    企業システムのクラウド化の現状

    クラウドというと、ネットワークでつながった大規模なデータセンターにある多量のサーバーやストレージ、その上で稼働する様々なソフトウエアを国内外から自在に利用できるような壮大なイメージあるかもしれません。
    一方で、SaaS(Software as a Service)形式でメールやグループウエア、各種の業務アプリなどを活用している企業もあるでしょう。多様な顔を持つクラウドですが、総務省がまとめた平成30年版の情報通信白書では、2017年調査でクラウドサービスを一部でも利用している企業は56.9%に上り、前年の46.9%から10ポイントと高い伸びを示しています。

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    総務省平成29年通信利用動向調査

    特に大企業では、クラウド事業者が提供するパブリッククラウドサービスや自社で構築したプライベートクラウド、さらにそれらを組み合わせたハイブリッドクラウドを活用している事例も多く、すでに「クラウド利用は当然」と感じるケースが多そうです。

    一方で、中小規模の企業ではクラウドとの縁がまだ深くない場合も多いようです。少し古い統計になりますが、2016年の中小企業白書(中小企業庁まとめ)では大企業のクラウドコンピューティングの利用が約48%だったのに対して、中小企業では約27%と20ポイントもの差が開いていました。中小企業ではクラウドの企業利用が大企業に比べて今でも立ち遅れていることが想像できます。

    クラウドが第一候補になる時代

    しかし中小企業がクラウドの波に乗り切れずにいるうちに、世の中の潮流はどんどん先へ進んでいます。クラウドの利用が当たり前になっているというだけでなく、クラウドを情報システム構築の際の第一候補にすべきだという考え方が浸透してきているのです。まずクラウドを検討せよという意味で「クラウドファースト」の考え方が広がり、そしてクラウドの利用を原則として考える「クラウドバイデフォルト原則」が打ち出されるようになってきています。

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    クラウドバイデフォルト原則の導入は、政府による「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」でも示されています。政府情報システムは、クラウドサービスの利用を第一候補として検討を行うというものです。機密情報を扱う政府の情報システムがクラウドサービスを第一に検討する時代ですから、企業がクラウドサービスを検討し導入することも当然の流れです。

    製造業から流通、交通、情報通信など多種多様な大手企業が、すでにパブリッククラウドサービスを導入してそのメリットを活かしたビジネスを推進しています。大手金融機関がパブリッククラウドサービスに業務システムを移行する事例も注目されています。

    クラウド利用の4つのメリット

    それでは、なぜクラウドがこんなに注目されているかを考えてみましょう。比較対象とするのは、自社でサーバーなどのハードウエア設備を保有する「オンプレミス」です。特に中小企業では、社内にパッケージソフトなど業務ソフトを導入したサーバーを設置して利用しているようなケースが多く見られます。情報システムの構築にパブリッククラウドサービスを利用すると、時間、コスト、拡張性、セキュリティなど多方面でメリットが生まれると考えられます。

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    ① 時間の短縮

    第一に、時間の短縮が挙げられます。クラウドでは、ハードウエアもソフトウエアもネットワーク上のサービスを利用できるので、新しいアプリケーションの開発や利用を始めるときにすばやく対応できます。オンプレミスでハードウエアを選んで調達し、セットアップするとなると、それだけで月単位の時間がかかってしまいます。

    ② コスト削減

    コスト面でのメリットもあります。オンプレミスでは情報システムの設備は固定費として減価償却していくことになりますが、クラウドでは利用した分だけを支払う従量課金制が基本です。ピーク時を想定した過剰なリソースを自前で保有するよりも、利用状況に応じた利用料を払うことでコスト削減につながる可能性が高まります。

     ③ システム利用状況に応じて拡大縮小可能な柔軟性

    こうしたクラウド特有の提供形態は、情報システムの柔軟性の向上というメリットももたらします。急な事業拡大、短期間のサービス利用、事業の見直しなどに対応して、利用するリソースを柔軟に調整することができるためです。

     ④ 堅牢なセキュリティ

    「いや、そうは言ってもセキュリティを考えると、重要データはネットワーク上に置くよりも自前のサーバーに保管するほうが安全だろう」。こういう考えも、従来は否定できませんでした。しかし、度重なる自然災害やサイバー攻撃からデータを守るには、設備の分散配置や最新セキュリティ技術への対応などが必要です。自前の設備でこうしたセキュリティ対応を高度化させるのは、現実的ではなくなってきています。アマゾン ウェブ サービス(AWS)に代表されるような代表的なパブリッククラウドサービスでは、最新の技術と設備でセキュリティ対策を施し、コンプライアンスなども含む各国の法規制にも対応しています。

    さらに、運用の側面からもクラウドサービスの利用にはメリットがあります。オンプレミスでは自社や委託先の担当者による監視が不可欠です。一方でクラウドサービスでは、耐障害性と高可用性を実現するための仕組みを備えており、個々の物理的なリソースの障害などの影響を最小限にできます。

    こうした数多くのメリットは、大企業だけが得られるものではありません。潤沢に投資ができない中小規模の企業にとって、迅速かつ柔軟な利用が可能で、使った分だけの料金を支払うクラウドサービスの利用は、大企業以上にメリットがあるのです。中小企業であっても、いや中小企業だからこそ、「クラウドバイデフォルト」の視点を持って情報システムの構築、更新に取り組んでいくことが求められるのです。

    参考リンク

    主要なパブリッククラウドサービス

    Amazon Web Services (AWS)

    Microsoft Azure

    IBM Cloud

    Google Cloud Platform