SAPもクラウドに移行する時代が本格到来。移行で注意すべきことは?(後編)

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    BeeX-Mr.Hoshino
    株式会社BeeX(ビーエックス)
    マネージャー 星野孝平氏

    オンプレミス環境で運用するのが当たり前だったSAPを、クラウドへ移行する流れが加速しています。そこにはどのようなメリットと、注意すべき点があるのでしょうか?

    SAPを初めとする基幹系システムのクラウドマイグレーションやマネジメントサービスを提供している、株式会社BeeX(ビーエックス)の代表取締役 広木太氏、マネージャー 星野孝平氏に引き続きお話を伺います。

     

    SAP S/4HANAのクラウドマイグレーションの可能性

    –SAPユーザーにとって、今後のプラットフォームとしてクラウドを意識せざるを得ない状況の中、パブリッククラウドはどの程度選択されているのでしょうか。

    広木氏:
     選ぶ選ばないは別として、クラウドはすでに選択肢のひとつになっています。とはいえ、まだまだプライベートクラウドを選ぶお客様は多く、巷で言われるような、半分はパブリッククラウドにという世界ではないと思います。現時点では、5年ほどのスパンで見るとコスト面ではそれほど変わらないケースもあり、それならばまだパブリッククラウドにはしないというお客様も多いです。

    –システム規模が大きすぎてパブリッククラウドへの移行を断念したというケースもあると聞きますが、実際にはどうなのでしょう。

    星野氏:
     確かに厳しい部分はあります。たとえば、インメモリーデータベースのHANAをパブリッククラウドで使おうとしても、現状ではデータベースのサイズは2TBが上限です注1。それも2TBに対応できるようになったのもまだ去年の話ですので、例えば今すぐ4TBは必要というお客様だと、やはりまだパブリッククラウドは厳しいことになりますね。

     ただし今後比較的短期間のうちに、そのような大規模な構成に関しても、Amazon、Azure、あるいはGoogleといった大手企業は対応する予定と伺っていますので、この点はある程度時間的な問題と考えています。

    パブリッククラウド上での検討ポイント

    –パブリッククラウド上でSAPを運用する場合の課題について、最近はセキュリティを懸念する声は減っているのでしょうか。

    広木氏:
     セキュリティについて言えば、むしろ最近では厳しいセキュリティ認証を取得しているパブリッククラウドベンダーが保有するデータセンターに置くことで、オンプレミスよりセキュリティ対策が高められると感じる方も増えてきたのではないでしょうか。

     とはいえ、もちろんパブリッククラウドベンダーが担保してくれるのは下のレイヤーだけですから、アプリケーションレイヤーに関しては今まで通り自分で保護しなければなりません。気をつけるべきところは変わらないという意味ではオンプレミスと同じですし、同レベルの注意をすれば問題ないでしょう。

    –パブリッククラウドに移行したからといって、必ずしも安くなるわけではないというケースはありますか。

    広木氏:
     あります。オンプレ環境では余剰資産を抱えているケースがままあります。オーバースペックな機器を持っていたり、横展開するため余分にテスト機を用意しておいたり、一時的なもので余剰資産を抱えているケースです。このやり方をパブリッククラウドへ持ち込んでしまっては、費用は下げられません。パブリッククラウドでは資産としてあらかじめ抱える必要はなく、随時追加すればいいだけですから、この点は先に考え方を切り替えておかないと安くなりません。

    –たとえば回線費用など「想定以上のコストがかかる」というものはありますか。

    広木氏:
     回線費用は現状もかかっているはずのコストです。これまでもどこかのデータセンターを使っているでしょうから。もちろん、AWS用に新たに回線を引けば、余計にかかることになりますが、それを理由にAWSをやめるというお客様は少ないですね。

    –パブリッククラウドの、IT基盤としての信頼性、可用性に対する認識は、現状どうなのでしょうか。

    星野氏:
     パブリッククラウドベンダーは「Design for failure」、つまり落ちることを前提に設計することを推奨しています。もちろん、SLA以上の可用性を求めても難しいので、「落ちても被害が発生しないような設計」をしておく必要はあるかと思います。とはいえ、どこまで可用性を担保するかということについては、都度機能とコスト両方に配慮していかないと、かえってコストがかさむことがあります。

    –いま「落ちることを前提に」とおっしゃいましたが、SAPで特に可用性対策が必要な部分はどこでしょうか。

    広木氏:
     データベースサーバーと、いくつかのSPOFとなるコンポーネントに対しては何らかの対策が必要だと思います。

    –実際のところ現在のパブリッククラウドには、可用性という意味ではオンプレミスの世界より弱い部分が存在するのでしょうか。

    広木氏:
     確かに、大規模な障害は減ってきていますが、個々のノードのレベルでは、障害がないとはいえません。また、ストレージ障害からの復旧後、すぐには性能が出ないというケースがあります。その場合、仮にシステムとしては動いていたとしても業務に影響を与える可能性もありますので、このあたりは単純に稼働率99.うんぬんで語れないところですね。ただ、テクノロジーの進化で解消することも多いので、来年には消えている課題である可能性もあります。

    パブリッククラウド上でも、高可用性の担保が重要

    –SAPのシステム構築では、クラウドでのアプリケーション環境の高可用性について、どのような対策を行われてきたのでしょうか。

    広木氏:
     避けなければならないのは、データが壊れてしまうことです。よってデータベースに関しては最低限ミラーリングやレプリケーションなど、ひとつが壊れても別の筐体で動くようにしておき、ディスク障害や論理的な障害に備えることが重要です。先ほどの復旧後性能が出なくなるといったことを防ぐ対策にもなります。ここが一番重要なポイントですね。

    –データの損失以外にもデータベース自体の可用性の問題があります。データベースが使えなければ、業務の停止は避けられません。

    星野氏:
     その部分の可用性の確保の重要性は、今後ますます高まると思います。

     またアプリケーション自体がシングルポイント障害になってしまう要素があるため、クラスター構成を組むことが有効です。人間の判断を介さず、復旧の自動化も可能となり、より短いRPOが実現できます。

    –パブリッククラウドでは、クラウドベンダー自体の定期メンテナンスが実施されることもあますが、こちらに関しての対策は必要でしょうか。

    広木氏:
     当然、メンテナンス時にはインスタンスが落ちることになり得ますので、それが許容できない場合は、クラウド側の定期メンテ対応も障害対応と同様に設計していかなければなりません。定期メンテナンスは、ベンダーによって対応の仕方が変わるので、それに合わせた対策が必要になります。

    –これからますますSAPのクラウドへの移行が加速するとなると、やはり然るべき可用性の担保が必要、かつそれに基づいた事業継続性の実現がより重要になっていくということでしょうか。

    広木氏:
     もちろん重要になっていくでしょうね。これからは今まで以上に、パブリッククラウドへ移行されるお客様が増えていきます。また、インメモリーデータベースのHANAは、これまでとは違う可用性対策、プラスアルファの対策が考慮されるようになってきているのは間違いありません。アップタイムの時間だけを考える99.99・・・などの数値で表される部分だけではない可用性を考えていくためには、特にレプリケーションを使った冗長性の担保が非常に重要になってくるかなと思います。

    –本日は大変貴重な話をありがとうございました。

    BeeX
    広木様(左)、星野様(右)、貴重なお話をありがとうございました!

     

    注1) 2017年 5月 24日インタビュー時点。この後、アマゾン ウェブ サービス社、マイクロソフト社からそれぞれ大型メモリーインスタンスの発表がありました

    関連記事:星野様にDataKeeperの検証記事を執筆いただきました。

      株式会社BeeX(ビーエックス)について
       SAPとクラウド両方を理解し、かつ運用にも精通したテクニカルコンサルティングチームです。
       実際にSAPを運用してからでないとわからない勘所を押さえた提案が特徴です。
      企業サイト: https://www.beex-inc.com

      SAP関連サービスについて
      「データセンタートランスフォーメーション(データセンター変革)」、「ハイブリッドクラウド・  マルチクラウド」という2つのテーマを軸に、SAPのクラウド移行、クラウド基盤構築および運用保守サービスをご提供します。
      製品サイト: https://www.beex-inc.com/service/

     

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