次世代の仮想化インフラとして注目を集め、近年市場が急速に拡大しているハイパーコンバージドインフラストラクチャ(Hyper Converged Infrastructure:HCI)。
今回は、ハイパーコンバージド分野のリーディングカンパニーであるニュータニックス・ジャパン合同会社のSystems Engineering Director露峰光氏、同社シニアソリューションアーキテクトの鈴木孝規氏にお話をうかがいました。
露峰氏:
ニュータニックスには約2年前に入社し、ハイパーコンバージドシステムやエンタープライズクラウドシステムをお客様にご提案し、ビジネスを拡大するための、プリセールスSE組織の責任者を務めています。これまではVMware、サンマイクロシステムズといった、ITインフラを提供するテクノロジーベンダーでSEとして勤務してきました。
鈴木氏:
私は今年の8月にDell EMCから移ってきました。シニアソリューションアーキテクトとして、テクニカルアライアンス関連や、日本のコミュニティであるエンタープライズクラウドアソシエーションを中心に活動しています。バックグラウンドはネットワーク系で、Interop ShowNetのNOCチームメンバーやOpenStackコミュニティで活動しています。外部コミュニティでの活動の知見を活かして、今後コミュニティの活性化や製品へのフィードバックに力を入れていく予定です。
“ハイパー”コンバージドインフラストラクチャとは何か?
― まずは、ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(以下、HCI)についてうかがいます。「Hyper」という単語を辞書で調べると、「非常に興奮した」、「異常に活発な、活動的な」といった説明が書かれています。この“Hyper” Converged Infrastructureとは、何と比べて「ハイパー」なのでしょうか。
露峰氏:
いきなり難しい質問ですね(笑)。従来のコンバージドインフラと比べて「ハイパー」ということだと思います。サーバー、ストレージ、ソフトウェアのようなシステムの構成要素がすべて工場出荷時に組み合わされていて、お客様はそれをすぐに使えるというものが従来のコンバージドインフラでした。いわばパッケージのようなものです。しかし、ストレージ、ネットワークやサーバーがそれぞれの運用管理体系を持っていることには変わりはありませんでした。
一方ハイパーコンバージドは、ストレージ、ネットワーク、サーバーを、すべて一つのソフトウェアで統合した形で運用管理できるので、そういった意味でハイパーだと言えると思います。
― ハイパーコンバージドを使用した場合、ユーザーにとって最も大きなメリットとはどのような点でしょうか。
露峰氏:
ひとつは、お客様がすぐに使える点。それから、運用管理が非常に簡単である点。さらに、スモールスタートができて拡張性に富んでいるのも大きなメリットです。
圧倒的なニュータニックスの強みと差別化要因
― 次に、ニュータニックス社の強さの秘密をうかがいます。御社はハイパーコンバージドの世界では王者ともいえるリーディングカンパニーですが、なぜその地位を維持することが可能なのでしょうか。
露峰氏:
マーケット参入が早かったということもありますが、圧倒的に製品力だと思います。真の意味で先ほどのメリットを提供できる、そして本当に使えるソリューションを提供しているという点が一番大きな理由です。
― 競合他社の製品と比べた場合の具体的な差別化要因は何でしょうか。
露峰氏:
弊社が提供するハードウェアはOEMで調達したx86マシンであり、いわばコモディティーですが、その上で動く自社開発のソフトウェアスタックは完全に統合されており、このソフトウェアこそが差別化となる部分です。ハイパフォーマンスで使いやすく、拡張性に富むという特徴をソフトウェアで実現しています。
鈴木氏:
他社では、基本的にはストレージ機能、ハイパーバイザー機能、その他いくつかの機能を一緒に組み合わせたものをハイパーコンバージドと称して提供していると思います。それらは真の意味でインテグレートされていなかったり、拡張性に制限がある、中小規模のワークロード専用のものだったりします。製品設計からすべてを統合したものとして提供していた弊社には時間的な優位性があり、現在先頭を走ることができていると感じています。
わずか2つの構成要素ですべてを統合管理する – 「Acropolis」と「Prism」
― 製品の全体像と構成要素についてもう少し具体的にお聞かせください。ハードウェアの上にどのようなコアとなるテクノロジーがあって、独自の要素を作り上げているのか、さらにはどのようなものがその上に乗ってくるのでしょうか。
露峰氏:
以下の図をご覧いただくとわかりやすいと思います。
ハードウェアは、弊社で提供するもの以外にも、Dell、CISCO、Lenovo、HP、更にIBMのPower上でも動きます。ハイパーバイザーはvSphere、Hyper-V、そして弊社が提供するAHV(Acropolis Hypervisor)を選べるうえ、最近はXenServerにも対応しました。ここまで多くのハイパーバイザーをサポートしている競合製品は存在しないと思います。
弊社で開発しているのはAcropolisとPrismの2つの部分です。分散ストレージファブリック、分散ファイルシステム、ハイパーバイザー間の移行、エンタープライズクラスのストレージ機能、DR機能などのコアになる部分がAcropolisで、その上にPrismが乗っています。この2つだけで構成されているので、どのような機能でも1つのPrism画面から運用管理ができます。システムによっては、サーバーの管理はサーバーのシステムの機能を使う、ストレージの部分は専用のツールを使う、ハイパーバイザーも別、というものもありますが、弊社の製品では基本的にPrismのみで管理できるという点が大きな特徴です。
― まさに「統合管理ツール」ですね。
露峰氏:
これはPrismの画面ですが、ここで全体を俯瞰したりドリルダウンしたりできます。
スマートフォンのように使いやすいデザイン、ほとんどトレーニングを受けなくても使えるインターフェースにしたいという意図で作られています。さらに分散ストレージの部分は、元々Googleの分散ファイルシステムを作っていた人が参加して開発したものです。Google社のような大規模なデータセンターやクラウド環境までスケールできるものにデザインされています。
― アプリケーションの配置と移行の機能の特徴はありますか。
露峰氏:
たとえば、ESXi上で動いていたシステムをAHVに簡単に移行するというような機能、ディザスタリカバリ(DR)のためのリモート間レプリケーション機能なども、Acropolisに統合しています。
― ESXiからAHVにアプリケーションを移行するというのは、実際にはどのようなイメージでしょうか。
露峰氏:
ESXiとAHVの間でレプリケーションが可能です。レプリケーションは仮想ディスク単位で実施します。また近い将来的、数クリックの操作でESXiからAHVへの移行を行う機能や、Prismにアプリケーションのライフサイクル管理機能も組み込む予定です。例えば、アプリケーションのデプロイや、アプリケーションのパフォーマンスが足りなくなった際に自動的にインスタンスを追加するといった機能、アップグレードやパッチ適用のライフサイクル管理を統合する予定です。
― どんどん進化していくのですね。
露峰氏:
そうですね。本当に一つの画面を見るだけで、アプリケーションからハードウェアまで管理がすべてできるようになります。
米国の政府機関でも使われているAcropolisのセキュリティ
― では、AHVの特徴について教えてください。
露峰氏:
まず、管理がPrismに統合されているという特徴があります。そのため他のツールを使ってハイパーバイザーを管理する必要がありません。
また、セキュリティが非常に優れています。STIG(Security Technical Implementation Guide)という米国の政府機関で使用されている、X86のシステムをいかに強固にするかというガイドラインがあるのですが、通常だったらそのドキュメントを見て、脆弱性がないように設定します。AHVの場合はそれをオンラインで組み込んでいて、自動的にSTIGに基づいた構成ができるようになっているため、間違えて変更してしまった場合でも自動で戻す機能が備わっています。ですから、管理者がわざわざ設定する必要はありません。あまり語られていないのですが、そういった特長があります。
― ヒューマンエラーに起因するさまざまなトラブルを防ぐといった目的もありますか。
露峰氏:
そうですね。また、無料ですぐにお使いいただけるので、コストメリットも非常に大きいと思います。また、ハードウェア面では、高価な外付けストレージも不要ですね。ローカルフラッシュストレージやハードディスクを組み合わせ、コストを抑えつつ大規模なストレージ空間を管理するイメージです。
仮想デスクトップから始まり、基幹系へと広がりを見せる用途
―少し話の方向を変えて、ニュータニックスが活躍する場面やアプリケーションについて伺います。初期には、どのようなアプリケーションや用途から火がついてきたのでしょうか。
露峰氏:
最初は仮想デスクトップ(VDI)が多かったですね。なぜかというと、VDIで一番ポイントになるのは、ストレージのパフォーマンスでボトルネックが出やすいという点だからです。ユーザーが増えてくると、例えば全員が一斉にログインする朝など、どうしてもストレージの部分がネックになりますが、ハイパーコンバージドではそういったボトルネックがないので、選ばれることが多かったと思います。
― オールフラッシュストレージなどがVDIの世界でも結構使われていましたが、それとイメージは似ていますか。
露峰氏:
フラッシュを使用するという点では似ているのですが、ハイパーコンバージドは完全に分散型なので、インターフェースやコントローラーも含めてスケールアウト型で拡張できます。
このアーキテクチャのメリット、たとえばスケールアウトできるとか運用管理が簡単だという点は、どのアプリケーションでも必要になってきます。また、可用性の面でも優れています。これらはすべてエンタープライズアプリケーションに必要な部分なので、ERPやCRMなどの基幹系システムでも使われるようになってきました。 特にSAPなどの商談は、ワールドワイドで着実に増えてきていますね。
― データベース系のプラットフォームとして見た場合は、ニュータニックスはI/O性能は従来の大型ストレージと比べても遜色ないレベルに達しているのでしょうか。
露峰氏:
リアルワールドのワークロードでは、遜色ないというか十分すぎるくらいになっています。Oracle、SQL Serverといったデータベースのプラットフォームとしての採用も多いです。
ミッションクリティカル領域での可用性確保
―ミッションクリティカルな領域にも用途が広がってきたようですが、そのような分野ではどのコンポーネントでも長時間の停止が許されないと思います。ニュータニックス社はこの点に関して、どのような機能を提供されていますか。
露峰氏:
まず、エンタープライズレベルのストレージ機能を実装しているので、一般的なストレージが持っている可用性は備えています。ウェブスケールのアーキテクチャはスケールアウトしやすいだけでなく、ハードウェアやシステムのダウンに非常に強いです。既設システムの可用性を計測していますが、実績として99.999%ぐらいの可用性を実現しています。
ただ、現時点では、アプリケーション固有の死活監視は弊社ではカバーしていません。また、アプリケーションによっては、データの一貫性などのアプリケーション固有の可用性などにもまだ対応していません。
― 実は今年の7月に、日商エレクトロニクス様に検証環境をお借りして、AHV上でLinux系のOSを動かした際に弊社のSIOS Single Server Protection(SSP)という製品がどのような価値を生み出せるかということを考察しました。このSSPという製品はHAクラスターが持つ機能を一部切り出し、ひとつのVM上でミドルウェアやアプリケーションの状態を監視して、異常があった場合に自動復旧するというものです。単なるプロセスの死活監視ではなく、スクリプトを組むこともできますし、オプションとして付属しているリカバリーキットを使用して標準的な監視をすることもできます。
このような機能をニュータニックス上でテストして、全く問題なく動くということが確認できました。これは、ニュータニックス上でSSPを組み合わせることにより、よりトータルな可用性の担保、ミッションクリティカルな分野における保険になるのではないかと考えて実施した検証です。今回の検証はSingle Server Protectionのみでしたが、次回はLifeKeeperも試してみたいと思っています。(日商エレクトロニクス様のNutanixブログに、
露峰氏:
ミッションクリティカルなシステムではアプリケーション固有の死活監視を求めるお客様も多いので、SIOS製品とは補完関係にあると思います。私たちは、弊社の製品だけで全てをカバーしようとは思っていないので、アライアンスパートナー様たちとエコシステムを作っていくことも非常に重要だと考えています。
HCIから「エンタープライズクラウド」へ、進化するニュータニックス
― 御社は現在、HCIからエンタープライズクラウドという方向にシフトされていますが、パブリッククラウドというのは御社から見てライバルになるのでしょうか。
露峰氏:
パブリッククラウドを使わないという選択肢はないと思っています。理想の形はハイブリッドですね。Elasticなものであればパブリックのほうが適していますが、エンタープライズのアプリケーションの場合は、セキュリティやコスト面を考えるとパブリックは必ずしも最適とは言えません。両者をうまく使い分ける必要があり、そうできるようになる必要があります。私どもが考えているエンタープライズクラウドというのは、パブリックもオンプレミスも透過的に使えるようなものです。ハイブリッドな世界でも、Prismで全部管理できるという世界ですね。ですから、パブリックが必ずしもライバルであるとは考えていませんし、そういった意味でもGoogle社と提携したりもしています。
― 一方で、プライベートクラウド基盤として考えた場合、御社はその世界での王者ということになるでしょうか。
鈴木氏:
そうですね。ですからファーストステップとして、主要なパブリッククラウド と同じくらい使い勝手の良いものをまずオンプレミスで提供してきています。そして、いろいろなクラウドやオンプレミスのシステムがありますが、それぞれすべて違う運用方法では、将来的に問題が生じる。そこで、その違いが見えないくらい、シームレスな運用管理や使い勝手を提供したいと考えています。
私たちのソフトウェアを使うと、パブリックもプライベートも意識する必要がなくなる、というのが最終的なゴールです。
露峰氏:
それを実現するためのプラットフォーム、OSやハイパーバイザーを含めたものをエンタープライズクラウドOSと呼んで、そこにフォーカスしています。
― 最後に、今後の展望やさらなる可能性などがありましたらお聞かせください。
露峰氏:
AWSやGCPなどのパブリッククラウドとNutanix環境を利用するマルチクラウド環境において、透過的にアプリケーションのライフサイクル管理が可能にする、Nutanix Calmを先日発表しました。さらに、使っていることを全く意識しないようなクラウド、Xi Cloud Servicesというものも発表しています。これは単純なIaaSのサービスではなく、iPhoneでいうところのiCloudのようなもので、来年からアメリカで提供を開始する予定です。まずは、DR as a serviceを提供する予定です。
鈴木氏:
これは、スマートフォンで「バックアップ」をオンにしておくと自動的に写真がクラウドにバックアップされるように、エンタープライズアプリケーションでも簡単な設定で自動的にDRができる サービスです。こちらが、最初に提供される予定です。
― 本日は貴重なお話をありがとうございました。
露峰光氏
鈴木孝規氏
Nutanix Inc.について Nutanix AcropolisとNutanix Prismについて |