ビジネスクリティカルなアプリケーションのための、マルチクラウドの高可用性

    ※この記事は翻訳されたものです。本記事の原文はこちら

    Flexera 2021 State of the Cloud Reportによれば、過去10年間でクラウドコンピューティングが普及し、99%の組織が少なくとも1つのパブリックまたはプライベートクラウドを使用しています。現在、AWS、Microsoft Azure、GCPがパブリッククラウドプロバイダーのトップ3ですが、多くの企業が、意図的、または偶然から、最も魅力的で自社のビジネス要件に最適なクラウドサービスを選択できるマルチクラウド戦略を採用しています。Flexeraのレポートによると、現在92%の企業がマルチクラウド戦略を採用しており、使用しているクラウドの数はパブリッククラウドが平均で2.6、プライベートクラウドが2.7となっています(SaaS、PaaS、IaaSを含む)。

    マルチクラウドとは

    マルチクラウドとは、2つ以上のパブリッククラウドやプライベートクラウド(SaaS、PaaS、IaaSを含む)から構成される環境のことを言います。マルチクラウド環境のさまざまなサービスは相互運用できる場合もあれば(その場合はハイブリッドクラウドとなります)、できない場合もあります(基本的に別々のクラウドサイロとなります)。ハイブリッドクラウドはすべてマルチクラウドですが、マルチクラウドはすべてハイブリッドクラウドだというわけではないことに注意してください。

    戦略としてのマルチクラウドの進化(そして広範な採用)

    マルチクラウド環境は、SaaS、PaaS、IaaSを含む2つ以上のパブリッククラウドまたはプライベートクラウドの組み合わせで構成されています。たとえば、ある企業のマルチクラウド戦略では、Amazon Elastic Cloud Compute(EC2)上でエンタープライズワークロードを実行し、メールとバックオフィスアプリケーションにMicrosoft 365を使用しており、別の企業ではプライベートクラウドでホストされているカスタムデータベースを、パブリッククラウドのSaaSであるSalesforceに接続したりしています。

    ハイブリッドクラウド環境は、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドの各環境が混在して構成されています。Flexeraのレポートによると、80%の企業がハイブリッドクラウド戦略を採用しています(図4参照)。マルチクラウド環境はシャドーITの結果として発展することが多く、さまざまな部門が中央のIT部門に相談せずに、各自のニーズに合わせてクラウドサービスを調達しています。たとえば、マーケティングチームは、IT部門が最初のワークロードをAWSにデプロイするよりもはるか前からSalesforceを使っていたり、人事・財務部門は、現在企業が利用しているSaaSアプリケーションの組み合わせにWorkdayとConcurを追加しているなどです。あるいは、アプリケーション開発チームが世界中でさまざまなプロジェクトに取り組んでいる場合もあります。ある開発チームはAzureのDevOpsを好み、別のチームはAWSのオープンソースツールを好むかもしれません。このように、マルチクラウド戦略は偶然に発展することもありますが、それは必ずしも悪いことではありません。
    さまざまな部門は各自のニーズを満たす最適なソリューションを選択できるようになり、アプリケーション開発チームは、好みの開発環境で生産性を最大化し、市場投入までの時間を短縮することができます。
    また、マルチクラウド環境は、規制要件やM&A、高可用性やディザスターリカバリー戦略の実装のためなど、設計によっても進化します。

    規制の文章は曖昧でわかりにくいことがあります。たとえば、金融行為監督機構(FCA)のITアウトソーシングに関する規制では、企業は「代替サービスプロバイダーに移行する方法と事業の継続を維持する方法を把握して」いなければならないとされています。この文言は、規制対象企業は少なくとも第2のクラウド環境を計画する必要があることを示唆しています。厳しい規制の対象となっている企業の多くはリスクを回避する性質があり、このような問題のためにマルチクラウド戦略を採用しています。

    合併や買収後にITシステムを集約し、データセンターとクラウド環境を統合することは、大きなチャレンジです。クラウドプロバイダーやコロケーションプロバイダーとの既存の契約など、この取り組みを複雑化させる要因は数多くあります。物理的なデータセンターの統合と同様に、クラウド上のワークロードの統合も、大きなビジネス価値をもたらすわけでもない大掛かりな作業となるため、他の優先順位の高いプロジェクトのために延期されることが多いのです。

    最後に、マルチクラウド戦略は、高可用性とディザスターリカバリーの要件をサポートするために採用されることが多いです。AWSとAzure全体にわたる大規模なパブリッククラウドの障害について評価したところ、ほとんどの障害は一度に1つのクラウドリージョンで発生するのが一般的でした(そしてほとんどの場合、ソフトウェア関連でした)。


    ミッションクリティカルなワークロードを複数のパブリッククラウドプロバイダーに展開するという新たなステップを踏む企業が増えています(Flexeraのレポートによると、34%)。これは、ウェブサイトやアプリケーションなど、互いに独立して実行できる静的なワークロードの場合は、非常に簡単です。データベースやディレクトリサービス(Active Directoryなど)のような分散型システムの場合、マルチクラウドのディザスターリカバリーははるかに難しくなる可能性があります。

    マルチクラウド環境の独自の課題を理解する


    マルチクラウド環境は、シングルクラウド環境よりも複雑であるため、管理するのがより大変です。マルチクラウド環境に特有の課題には、次のようなものがあります。

    ・エンドツーエンドの可視性:完全な可視性を確保することは、どのようなIT環境においても課題ですが、非常にダイナミックなマルチクラウド環境では、さらに複雑で困難です。しかし、エンドツーエンドの可視化は、パフォーマンスの問題やボトルネックのトラブルシューティング、デジタルフットプリントの保護、ミッションクリティカルなシステムやアプリケーションの単一障害点の特定に不可欠です。


    ・セキュリティとID管理:ランサムウェアをはじめとするサイバーセキュリティの脅威は、今日、すべてのITリーダーにとって最大の関心事となっています。パブリッククラウドプラットフォームへの移行により、データセンターや物理的なセキュリティなど特定のセキュリティ責任をパブリッククラウドプロバイダーに移し、暗号化やネットワークセグメンテーションなどのサービスにオンデマンドでアクセスできるようになるため、一般的に組織のセキュリティ体制を向上させますが、その一方で、コストのかかるミスが起きやすくなる可能性もあります。たとえば、ネットワークの設定ミスはよくあることで、AWSのS3ストレージバケットが不適切に設定されたことが原因で、何千件ものデータ侵害が起きています。

    ・ID管理は、もう一つの課題です。たとえば、Azure Active Directoryは、これまでオンプレミス環境でActive Directoryを使用してきた企業にとっては非常に馴染みのあるものですが、ID管理をAzureだけでなくAWS、GCP、SaaS製品(Salesforce、ServiceNow、Workdayなど)にも拡張すると、新たな課題が発生します。

    • アプリケーションとデータのポータビリティ: ハイブリッド(マルチクラウド)環境において、異なるパブリッククラウドプラットフォーム間でアプリケーションとデータを動的に移動させられるかどうかは、多くのマルチクラウド戦略にとって重要です。パブリッククラウドプロバイダーは、必ずしもアプリケーションとデータの移植性を制限するようなサービスを構築しているわけではありませんが、この機能を推進するために連携しているわけでもないため、コストがかかる場合があります。また、クラウドプロバイダーごとに、さまざまなサービス提供に使用されているテクノロジーも異なります。

    ・マルチクラウドのサイロ:企業がアプリケーションとデータのポータビリティを考慮してマルチクラウドの導入を計画・設計していない場合、アプリケーションとストレージがサイロ化し、従来のオンプレミスデータセンター環境における共通の問題が、複数のクラウドプラットフォームで再現されることになります。企業には、異なるクラウドプラットフォーム間でのリスクと利用・コストを効果的に管理できる、マルチクラウドのセキュリティと管理ツールが最低限必要です。

    Flexera 2021 State of the Cloud Reportによると、81%の組織がクラウド導入における最大の課題としてセキュリティを挙げ、次いでクラウド費用の管理(79%)を挙げています。しかし、マルチクラウドのコスト管理ツールを使用している組織は42%、マルチクラウドのセキュリティツールを使用している組織はわずか38%に過ぎません。

    マルチクラウド環境における高可用性・ディザスターリカバリーへの対応

    マルチクラウドの導入には多くの課題がありますが、大規模なクラウド障害やディザスターリカバリーの際に、より高い可用性を得ることができるというメリットがあります。マルチクラウド戦略を推進する場合、クラウドに依存しない、信頼できるパートナーと協力し、総合的なアプローチでマルチクラウド展開の設計と実装を支援してもらうべきです。

    高可用性とディザスターリカバリーに対応するには、使用するクラウドプラットフォームに関係なく、マルチクラウド環境にまたがったクラウドに依存しないテクノロジーソリューションも必要です。高可用性ソリューションによって、スタンドアロン型のソリューションよりもダウンタイムが長くなるようなシナリオは、常に避けたいものです。SQL Serverクラスタリングの初期のバージョンでは、ディスクスペースを追加するために、スタンドアロンでは発生しないダウンタイムを発生させなければならないという難題がありました。静的なウェブサイトのようなものをフェイルオーバーするのは簡単ですが、多層のアプリケーションスタックを移動するのは、ネットワークとデータの同期が非常に複雑になります。また、クラウド プロバイダー間のさまざまなセキュリティソリューション間の微妙な違いを理解していないために間違って構成された、安全性の低いクラウド環境へのフェールオーバーを避ける必要もあります。

    最後に、どのパブリッククラウドにも、すぐにコストを増大させるサービスがいくつかあります。これらのサービスは、使用量に応じた価格設定で課金されるため、わずか数日でコストが大幅に増加する可能性があります。このリスクを軽減する一つの方法は、各クラウドプラットフォームにあるコスト監視サービスやアラートを活用することです。

    マルチクラウドの導入はすべての組織に適しているわけではありませんが、多くの企業がこの道を歩むことになると思われます。ネットワークとセキュリティの理解は最大の技術的ハードルの一つであり、ガバナンスとコストの管理は重要な機能的課題です。マルチクラウドクラスターソリューションが機能することを確認するためには、テストが重要になってきます。シンプルなスイッチオーバーとスイッチバックを可能にする高可用性クラスタリングソリューションを使用し、各アプリケーションがフェイルオーバーでどのように動作するかを理解することが重要です。そして一番重要なことは、フェイルオーバーを定期的にテストしてネットワークまたはデータ面でのハードルを理解することです。

    高可用性とディザスターリカバリーソリューションの詳細については、SIOSの担当者までお問い合わせください。

    関連記事

    SNSでもご購読できます。