SAP S/4HANAに最適化。巨大基幹システムを支えるマイクロソフト“SAP on Azure”の優位性(前編)

Ms.Ieda
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基幹システムをクラウドへ移行する企業が増えています。SAP製品が今後S/4HANAへとシフトするなか、クラウドベンダーが提供する環境やサービスも、よりユーザーの要望するものへと変化してきています。マイクロソフト社が注力する、SAP S/4HANAならではのシステム要件に応える”SAP on Azure”の強みと展望とは?同社グローバル ブラックベルト セールス部のテクノロジーソリューションズプロフェショナルである家田恵氏、Azure Enterprise技術部のクラウドソリューションアーキテクトである井上和英氏に、お話をうかがいました。

― まずはお二人の役割を教えてください。

井上氏:
 デジタルトランスフォーメーション事業本部という組織は、エンタープライズのお客様のデジタルトランスフォーメーションを支援する部門で、その部門でソリューションアーキテクトとしてAzureの提案を行っています。私は前職、前々職でSAP on CloudやSAP案件に従事していたので、SAPを強みとしています。

家田氏:
 グローバルブラックベルトセールス部は本社直轄の組織で、アジア地区、アメリカ地区、ヨーロッパ地区に組織を持っており、各地区にSAPを担当する営業担当と技術担当が所属しています。私はアジア地区の技術担当として、主に日本と一部APACの地域も支援し、SAP on Azureの設計支援やサイジングを行っています。

日本市場でも活況の“SAP on Azure”

― 本日はSAP on Azureというテーマでお話を伺います。まず、SAP on Azureの日本でのサービスの現状、活動についてお聞かせいただけますか。

Mr.Inoue

Azure Enterprise技術部
クラウドソリューションアーキテクト
井上和英氏

井上氏:
 SAP on AzureがSAPの認定を受けたのは2014年5月で、2015年から、マイクロソフトの日本法人として本格的に取り組みを開始しました。他のクラウドベンダーよりも立ち上がりは遅かったです。

家田氏:
  まだSAP on Azureは認知度が低いので、活動としては認知度を向上させるためのウェビナー、イベントといった啓蒙活動が中心です。SAPに関しては、8月4日のSAP Forumにもブース出展し、HANA on Azureに関するセッションも実施しました。
また、オンプレミスの時代からSQL Serverをご利用いただいているSAPユーザーのお客様が一定数いらっしゃるので、これらのお客様にクラウドの良さを伝えたり、特にSAP HANA用のインスタンスを米国で先にリリースしているので、グローバルの事例を紹介したりしています。

― サービスは米国で日本より先にリリースされ、そこで導入事例が先行して出てくるといったケースが多いのでしょうか。

家田氏:
 現状はそうですね。また、新しいことを一緒にやろうと言って下さるお客様が日本よりも米国のほうが多いといったような、カルチャーの違いもあると思います。

井上氏:
 ただ、最近は少し潮流が変わってきており、グローバルとしても日本市場は重要な位置づけで、米国の次という状況になっていると思います。というのもサービスのロールアウトが短期化していまして、例えばSAP HANA対応インスタンスであるGインスタンスという0.5TBのものがありますが、これは米国で発表になってから日本導入まで2年近くかかり、日本でのローンチは今年の1月でした。一方で新インスタンスのMシリーズ(3.8TB)は米国で最近リリースされたばかりですが、年内に日本にも導入予定です。

― 今年に入って多くのパートナー企業と提携されていますが、日本では今後どのような協業を進めていく予定ですか。

家田氏:
 SAPの導入に積極的に取り組んでいるパートナー企業に、いかにAzureを使ってもらうかという点が重要になります。そのためにパートナー企業を支援したり、パートナー企業が積極的にAzureを提案できるよう、ユーザーに対する啓蒙活動を推進したりしています。具体的には、サイジング、見積もり支援、パートナー企業の技術者向けのトレーニング、そしてプロジェクトが始まった際にはAzureに関する技術支援などを行います。

クラウド・ファーストで進むS/4HANA環境を支える、 “SAP on Azure”の優位性

― SAP on Azureは現在、非常に注目されていますが、盛り上がりはどうでしょうか。背景には、S/4HANAへの移行や新規構築という要素がありますか。

井上氏:
 かなり盛り上がってきています。実は最近のマイクロソフトのお客様では、S/4HANAの新規導入が一番多いです。SAP以外のERPをお使いだったお客様が乗り換え、S/4HANAで新規構築するというパターンが、大規模なお客様では多いです。また、すでにSAP ERPをお使いのお客様でも、それを移行するのではなく新たにS/4HANAを新規導入されているパターンが多いですね。

 背景にあるのは、今まで分散していたものを、システムとしてもビジネスとしても集約し、経営判断を加速したいというニーズです。グローバルで1インスタンスにしたいというご希望も多いと感じます。

― それを後押ししている要因や、SAP on Azureの強みは何でしょうか。

井上氏:
 他社との差別化要因がはっきりしてきたためだと思います。マイクロソフトではSAPの環境を考える際にはCloud Firstが当たり前になってきており、その中でSAP HANA用にチューニングした専用ハードウェア環境であるSAP HANA on Azure(Large Instance)を提供していますが、これは他社には提供できないものだと思います。OSの選択肢が豊富というのも強みです。

家田氏:
 現在の仮想マシンの技術には限界があり、大規模なSAP HANAの要求する性能を出すのは技術的に難しいという問題があります。その中で、今すぐに大容量を必要とされているお客様のご要望に応えるためにあるのがLarge Instanceです。これは、Azureの中に物理マシンを置いてでもハイスペックを提供するというもので、それくらいマイクロソフトはHANAに力を入れており、HANAを使いたいユーザーに最大限のリソースを提供するというコミットメントを強く打ち出しています。多くのお客様は今後、HANAに移行せざるを得ない状況に置かれており、そのような中でマイクロソフトを選択していただく理由になればと考えています。

― SAPのERP 6.0などのサポート期限が2020年から2025年に延長になったことによる影響はありますか。

井上氏:
 SQL Serverをお使いのお客様は、移行を足踏みしていますね。2025年までは現在のERPは使えますし、実は後にリリースされたS/4HANAの方が先に保守期限が切れます。よって今すぐに、しかも出たばかりのS/4HANAに移行しようというお客様よりは、もう少し今あるものを使おうというお客様も今はまだ多いのだと思います。

SAP向けのメニューとS/4 HANA専用の“Large Instance”とは

― AzureがSAPの基盤として、SAP向けに提供しているメニューや機能は、どう区分しているのでしょうか。

井上氏:
 SAP向けには、基本的にはSAP社認定のIaaSを提供しているので、認定された仮想マシンを使っていただくことが主流ですが、その中でPaaSにおいて使用できるのはAzure AD(Active Directory)です。SAPでもActive Directoryを使用して認証・認可を実施するケースは多いと思いますが、その機能を便利に連携することが可能です。オンプレミスの場合はSAP用にADを構築するケースが多いですが、これをPaaSのサービスで実施できます。

― この点に関しては、前回のインタビューでかなり熱く語っていただいております(笑)。

家田氏:
 Azure ADはAzureの中でも中核の機能の一つで、Azureの強みでもあり、SAP環境でも活用できると思います。幸い、Office365をお使いいただいているお客様はたくさんいらっしゃいますし、そのお客様はすでにAzure ADを持っていますから、一元的なID管理に繋げていくことが可能です。
IaaSにおけるHANA向けのメニューとしては、HANA専用のLarge Instanceがあります。今度リリースになるインスタンスのMシリーズはより汎用的で、他のものでも使える仮想マシンです。

― ではそのLarge Instanceに関し、先ほど「物理サーバーを置いてでも」というお話がありましたが、Large Instanceとはどのようなものか、もう少し具体的に教えてください。

家田氏:
 従来は、HANAの認定機はアプライアンスという形で完全にセットアップされた状態で提供されていました。しかしその後リリースになったTDI(Tailored Data Integration)というモデルでは、サーバーは認定機、そして組み合わせはある程度お客様が自由に選択できるというものをHANAの仕組みとして提供しており、このTDIモデルのマシンをデータセンターに置いています。Azureの仮想ネットワークの背後にもう一つネットワークを構成し、そこに物理マシンを置いて仮想マシンから接続する、という使い方をしていただきます。ここでは仮想環境を使わずに、つまり、仮想化によるオーバーヘッドを完全に排除して、ベアメタルとして提供しています。

Azureデータセンターの強みと物理的な優位性

― Large Instanceと、自社のデータセンターでサーバーを用意する場合との違い、メリットは。

Ms.Ieda

グローバル ブラックベルト セールス部
テクノロジーソリューションズプロフェショナル
家田恵氏

家田氏:
 物理的なマシンは置いてあっても、マイクロソフトとしてはIaaSとして提供するので、お客様が自分でハードウェアのことを考える必要がないという点が一番大きな違いです。マシンが故障しても、継続稼働が可能な限りは交換します。また仮想環境同様、OSより下のレイヤーはお客様が触れないようになっていますが、その代わりに必要に応じてリクエストしていただければ、メンテナンスはマイクロソフトが追加費用なしで一括で実施します。

井上氏:
 つまり、いわばベアメタルとクラウドのいいとこ取りですね。パブリッククラウドでは提供できない高いレベルのHANA向けのインフラを提供し、IaaS同様に管理コストを抑えられるというのがLarge Instanceの特長です。

― 例えば、クラウドの特長である「使いたい時にすぐ使える」という点についてはいかがでしょうか。

家田氏:
 もちろん、お客様専用のマシンを調達するためのリードタイムはありますが、お申し込みをいただいてからサービス提供までは2週間としています。通常お客様がハードウェアをメーカーに注文して導入するのに比べたら、ずっと速く提供できます。

― オンプレミスでの自社運用に対する優位性は何でしょうか。

井上氏:
 クラウドサービスとして提供している、つまり、クラウドの優位性をそのままSAP環境でも使用できる点です。そして、Large Instanceもクラウドサービスの一つです。そうではない、と言われる方もいらっしゃるのですが(笑)。

― 他のパブリッククラウドと比較した際の特長と優位性に関してお聞きしたいのですが、競合他社に対する戦略はどのようなものですか。

井上氏:
 マイクロソフトは競合他社ではなく、常にお客様を見てサービスを提供しています。お客様が自然にAzureを選んでくれるような世界観を作ることですね。競合他社に対抗するのではなく、お客様にとって何が幸せかを考える、というのが、現在の私たちのコミットメントです。そこで生まれたのがLarge Instanceです。これはマイクロソフトにしかできないことですし、お客様のためになることだと思いますので、こうしたところで差別化を図っていきます。また、マイクロソフトではHyper-Vという仮想化レイヤーを開発しているので、パブリックだけでなく、Azure Stackとのハイブリッド クラウドの提供も可能です。こちらはまだSAPには非対応ですが、パブリックにこだわらず、お客様のIT資産を活用してデジタルトランスフォーメーションを加速していけることが、マイクロソフトの強みだと思います。

Azureのセキュリティとコンプライアンスへのコミットメント

― では次に、パブリッククラウド上でSAPを運用する場合の課題についてうかがいたいと思います。まずはセキュリティ面についてですが、セキュリティ面の課題は99%程度は払拭されたと考えられるでしょうか。

井上氏:
 それはないと思います(笑)。

家田氏:
 例えば、データセンターのセキュリティに関しては、お客様自身のデータセンターよりもはるかに高い投資ができるという意味で、高いセキュリティ基準を満たしたデータセンターを構築できることは確かです。また、マイクロソフトは第三者認証を数多く取得しているという事実もあります。でも、それだからといって、お客様が「完全に安心です」と100%言って下さるかというと、それは難しいです。お客様の「なんとなく不安」という思いを払拭することが一番の課題だと思っています。

― それでも5年前に比べたら、やはりクラウドのセキュリティに関する意識は変わってきているでしょうか。

井上氏:
 先行するベンダーさんは、アーリーアダプターのお客様にサービスを提供してきていると思いますが、当社が担当しているのはレイトマジョリティのお客様だと思っています。そういったお客様に対しては、おそらくまだクラウドのセキュリティに関してマイクロソフトが語っていく必要があると思いますし、私も家田も、それは実践しています。

― コンプライアンス面など、法的な課題についてはどうでしょうか。

井上氏
 すでに失効している米国のPatriot法(米国愛国者法)がキーワードとして出てくることがいまだにあります。この点に関しては、CEOのサティア・ナデラが、マイクロソフトは第三者機関へはいかなるデータの開示もしないと、グローバルでコミットメントとして文書化しています。コンプライアンスはマイクロソフトの強みなので、お客様に対しても強く訴求しています。

 また、実際の裁判で勝訴もしていますし、コンプライアンスに厳しい製薬業界での導入例もできつつあります。

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